連載:2013年のスパムサイト戦記 第1話

2013年頃、私はアフィリエイトで起業しました。起業といえば聞こえはいいものの、手元にあったのは奨学金の残りの貯金だけで、収支は生活保護費を下回る赤字でした。何が当たるのか分からないまま、本当に手探りで、とにかく手を動かしていました。

このサイト「アトピーは水を飲んで治す」は、その頃に作った数多いサイトのひとつです。第1話では、中身の話をする前に、このサイトが載っていた土台、つまりドメインの話をします。

PageRankが値札になった時代

当時のGoogleは、ページの評価をPageRankという0から10の数字で表し、ブラウザのツールバーで誰でも見られるようにしていました。数字の高いドメインには被リンクの評価が溜まっていて、そこに新しくサイトを作れば上位に表示されやすい。少なくとも、そう信じられていました。

当時のSEOでは、このPageRankがかなり重要でした。そのため、PageRankの付いた中古ドメイン、いわゆるオールドドメインには値段が付き、普通に売り買いされていました。ツールバーの数字は、そのまま値札だったわけです。

深夜、ドロップするドメインを手で拾う

ドメインは、持ち主が更新せずに期限が切れると、猶予期間を経て削除され、また誰でも取得できる状態に戻ります。これを「ドロップ」と呼び、その瞬間を狙って取得することを「ドロップキャッチ」と呼びます。

私は、ドロップするドメインが一覧で表示されるサイトを見ながら、深夜に手作業でドメインを取得していました。画面に張り付いて、一本ずつです。

狙いは、もちろんPageRankです。当時は偽装されたPageRankのドメインも出回っていましたが、そうしたPageRankの高いドメインも、深夜に手動でドロップキャッチすることができました。PageRank3くらいまでなら、偽装ではない本物のドメインでも、手作業で拾えるものがありました。

拾ったドメインは、ヤフオクの在庫になった

拾ったドメインは、自分のサイトに使うためだけのものではありませんでした。ヤフオクに出品する「在庫」でもあったのです。サイトで稼げるようになるまでの間、ドメインそのものを売るのもひとつの手でした。

値段はPageRankで決まりました。だいたいの相場は次のとおりです。

PageRank価格の目安
PR21,700円程度
PR33,800円程度
PR417,000円程度
PR538,000〜50,000円

PageRankが1つ上がるだけで、値段は2倍から4倍以上に跳ね上がります。ツールバーの数字が、そのまま値札だったことがよく分かると思います。

「偽装PR5」の売れ残り

このサイトのドメインも、そうして拾ったもののひとつです。ツールバーに表示されるPageRankは5。ただし、それは偽装されたPageRankでした。

当時は、ドメインをPageRankの高いサイトへ一時的に転送しておくと、次のツールバー更新で転送先の数字がそのまま表示される、という抜け道が知られていました。ツールバーの数字は年に数回しか更新されなかったので、見かけの数字だけが高いドメインが出回っていたのです。数字が高く見えても、そのドメイン自体に評価が溜まっているわけではありません。

PR5なら4万円から5万円ほどの値が付く相場でしたが、このドメインはヤフオクで売れ残りました。売れ残った在庫は、自分のサイトに回すことになります。

ちなみにツールバーのPageRankは、このサイトを作った2013年の終わり頃を最後に更新されなくなります。値札そのものが止まったわけですが、その話は「アルゴリズム史×個人サイト」の回で書きます。

前の持ち主は、アメリカのアンダーグラウンドなヒップホップ

Wayback Machineで調べると、このドメインで以前運営されていたのは、アメリカのアンダーグラウンドなヒップホップのサイト「アルティメットヒップスター」でした。アトピーとも水とも、日本語とすら関係のない過去です。

それでも、その過去は使いようがありました。旧サイトの記事URLにどんな仕掛けをしたのかは、第5話で書きます。

それでも、検索から人は来た

売れ残った偽装PRのドメインでしたが、そこに作ったサイトには、「アトピー 水」などの検索から実際にアクセスがありました。2013年の検索エンジンでは、それでもそれなりに通用したわけです。

振り返って

いまの基準で見れば、偽装PRのドメインを扱うことも、そこに医療の誤情報を載せることも、褒められたものではありません。ただ、当時の私は生きるのに必死で、手探りで色々と試していました。正直に言えば、あの頃のアルゴリズムでもう一度遊んでみたい気持ちもあります。

反省文でも武勇伝でもなく、そのときの手触りのまま残しておく。それがこの連載の目的です。

次回は、このドメインに何を載せたのか。当時「儲かるらしい」と言われていたウォーターサーバーと、普通にアフィリエイトできた水素水の話です。

展示資料:このドメインに作った旧トップページ「アトピーは水を飲んで治す」(黒歴史展示室)。健康・医療に関する記述は根拠のない誤りです。

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