連載:2013年のスパムサイト戦記 第3話

当時の私は、ひとつのサイトを大事に育てていたわけではありません。サイトを量産しまくって、とにかく何かのキーワードで上位に定着させようと必死でした。「アトピーは水を飲んで治す」も、その乱打の中のひとつです。

サイトの数はどんどん増えていきました。中身は、大きく2つの系統に分かれます。

ひとつは、手をかけて、無料ブログで作ったサテライトから被リンクまで送っていたサイトです。これが12サイトほどありました。もうひとつは、とりあえず何でもいいから、オールドドメインに狙えそうなキーワードでコンテンツを作るサイトです。こちらも複数あり、被リンクは送っていませんでした。

「アトピーは水を飲んで治す」は後者、オールドドメインの力を頼りに作った系統のサイトです。

ひとつのドメインに18ページ

このドメインに残っていたページは18枚です。ファイルの日付は2013年11月から2016年1月まで。およそ2年のあいだに、アトピーと水の記事だけでなく、アロエ、ダイエット、フィギュア、腕時計の買取、スマホの買取と、脈絡のないページが積み上がっていきました。

展示室に並べてみると、量産の手口がいくつかの型に分かれているのが分かります。

型その1:ワードサラダ

「給水器の設置」は、タイトルだけ見ると給水器の申込ページです。ところが本文では、織田信長や西陣織、アイドルの名前が、給水器という単語とつなぎ合わされています。高級腕時計の買取のページでは、青の洞窟と求人広告と時刻サーバーの話が混ざっています。

意味は通らなくても、狙ったキーワードが文中に何度も出てくる。検索エンジンにはそれで十分だと考えられていた時代の文章です。

当時は、文章の一部を確率で差し替えるツールを使っていました。元の文章の単語や言い回しをランダムに入れ替えて、少しずつ違う文章を大量に作るツールです。サテライトブログには、そのツールで作った文章をコピペしていました。

アフィリエイトサイトのほうは、ページの上に少しだけ煽る文章とバナーを貼り、その下にワードサラダのようなコンテンツを積む、という作りです。展示室の給水器のページも、上に「申し込みはこちら」の文章と広告バナー、その下に意味の通らない本文、という構成になっています。

型その2:ファイルの使い回し

Panteru.html、Pasha.html、Santos.html、Tank.htmlは、ファイル名が高級腕時計のモデル名です。ところが中身は、スマホやタブレットの買取になっています。時計買取のページを作ったあと、同じファイルを上書きして別のキーワードに使い回したのです。

型その3:トレンド便乗

2015年10月にはノーベル賞の受賞ニュースに便乗した記事を、12月には発売されたばかりのスマートウォッチの買取ページを作っています。話題になった言葉で一瞬でも検索流入を拾えれば、それでよかったわけです。

なぜ「アトピー×水」だったのか

その中で、このドメインの顔になったのが「アトピー×水」でした。数ある悩みの中から、なぜアトピーだったのか。きっかけは、自分の生活の中にありました。

当時、経済的に困っていた私は、シェアハウスを始めようとしていました。実際に入居しに来た人がアトピーで、100円ショップのミニほうきで床を掃くと、一日で、剥がれ落ちた皮膚が山のように集まったのです。

その光景と、水素水をアフィリエイトするという案件を、無理やり結び付けました。「アトピー×水」というテーマは、そうして生まれたものです。実際、「アトピー 水」のキーワードでは検索からの流入がありました。

その人にとって、アトピーは毎日の苦しみそのものだったはずです。目の前でそれを見ていながら、それを商材の材料にしてしまったことになります。

振り返って

数を打てばどれかが当たる。当時の私にとって、それはいちばん合理的な戦略でした。資金も時間もない個人が、検索エンジンの隙間を探すには、手を動かして数を出すしかなかったのです。

ただ、Googleはこの種の量産を、2024年に「大量生成コンテンツの不正使用」としてスパムポリシーに明記しました。人の手で作ったか、ツールで作ったかは問わない、という形です。その話はアルゴリズム史の最終回で書いています。

展示資料:黒歴史展示室の「ワードサラダ標本」「ファイル使い回し」「トレンド便乗」の各ページ。実在の人物・企業名は伏字にしています。内容は事実ではありません。

第2話 ウォーターサーバーと水素水第4話 2010年代初頭の空気と「PB批判」