連載:2013年のスパムサイト戦記 第5話
展示室を見て、数字だけのファイル名が気になった人もいると思います。6069461637.html、9888585191.html。これは、このドメインで以前運営されていた旧サイトの記事URLの名残です。第5話は、その数字にまつわる作戦の話です。
前の持ち主が残したもの
第1話で書いたとおり、このドメインで以前運営されていたのは、アメリカのアンダーグラウンドなヒップホップのサイト「アルティメットヒップスター」でした。サイトはなくなっても、その記事に向けて外部から張られたリンクは、ネットのあちこちに残っています。リンク先のURLを開いても、ページはもう存在しません。
だったら、同じURLにページを作り直せばいい。そうすれば、残っている被リンクの評価を受け止められるはずだ。当時の私はそう考えました。ドロップキャッチしたドメインに残ったSEOパワーを、残さず使い切る作戦です。
/post/数字/ に家を建てる
旧サイトの記事URLは、/post/6069461637/ のように、/post/ のあとに長い数字が付く形でした。Wayback Machineで旧サイトのURLを調べ、同じ場所にページを置いていきます。
ただし、中身は旧サイトの記事とは何の関係もありません。ミャンマーのアロエ、評価の高いフィギュア、コスプレのダイエット、ボケる前にやること。URLさえ一致していれば、中身は何でもよかったのです。
そして、トップページのサイドバーから各ページへリンクを張り、各ページの「TOP」リンクからトップページへ戻す。こうして、旧URLで受け止めた評価をトップページへ流し込む配管ができあがります。
展示ページには、この構造の証拠が残っています。旧URLに置いていたページの「TOP」リンクは、どれも ../../ という書き方でした。/post/数字/ という2階層下から、トップへ戻るための相対パスです。
ミャンマーのアロエとアルティメットヒップスター
旧URLに建てたページのテーマは、どう選んでいたのか。たとえばミャンマーのアロエは、検索エンジンで、まだ誰もサイトを作っていないキーワードを探した結果です。競合がいなければ、小さなページでも上位に出られます。
トップのサイドバーには、「アルティメットヒップスター(DQN)」というリンクもありました。アルティメットヒップスターは、このドメインにあった旧サイトの実際の名前です。旧サイトの名前をリンクに付けておきながら、リンク先の中身はコスプレのダイエット。ヒップホップだった旧サイトと、日本語のスパムサイトの継ぎ目が、そのままサイドバーに出ていたわけです。
いまから見れば
Googleは2024年、期限切れのドメインを取得して、元の評価を利用するために価値の低いコンテンツを載せる行為を、「期限切れドメインの不正使用」としてスパムポリシーに明記しました。この作戦は、まさにその典型です。詳しくは「2024年、手口に名前が付いた」で書いています。
そのドメインはとうに失効し、このサイトはいま、私個人のサブドメインで公開しています。旧URLの構造はもう必要ありません。ただ、あの数字だけは記念に残して、展示室の収蔵番号にしました。
展示資料:ミャンマーのアロエ、評価の高いフィギュア、コスプレのダイエット、ボケる前にやること。健康に関する記述は根拠のない誤りです。